June 14, 2006
ダブルスコア説教
なんちゅーか、パンクな響きだな。最近昔の事ばっかり書いてる気がする。
ま、昔っていっても５年前ぐらいかな。
某芸人事務所で働きはじめて間もない頃。
なんとなく中野から荻窪まで歩いて帰っていた。
高円寺過ぎたあたりから荻窪の手前まで中央線の高架下を通っていかれるんだけど、その道が好きでね。
電車賃にしたって１０円ぐらいしか浮かないし、時間を無駄にしてるように思ってたけど、なんか楽しかったよ。何もないけど。
とある小雨が降っていた日、高架下を歩いてるときにどうも止んでたみたいなんだけど、邪魔だったから傘をさしたまま歩いていた。そしたら「写真家」を名乗る４２歳のオッサンが声をかけてきた。
エスニックなアイテムを取りれてアウトローだかヒッピーだか、自由人気取った感じの。案の定、そういうオッサンでさ。
ま、暇だから相手してやろうと思って、湿気た公園のベンチに座って話に付き合う事にした。
俄社会批判や『自分は人と違うんだ』とか『俺は一番を目指している』とか何某かの夢を滔々と語ってて、最初のうちは「凄いですねー」「いいですねー」とか相槌を打ってやったけど、全然面白くなくてさ。いい加減オッサンの観察にも飽きてきたから帰ろうと思ったんだけど、オッサンは一方的に喋くって一方的に興奮して盛りやがってよ。おいらの説教スイッチを入れてしまったんだな。
「オッサンさ、自分は人と違うとか言っておきながら結局誰かと比べて、劣等感を感じたり、優越感を得て喜んでるわけでしょ。
一番ってのは二番が居ないと一番にはならないですよ。一番の基準は何ですか。自分が一番納得いく事をすれば、人はどうでもいいじゃないですか。人と違うってのは誰とも比べられるものがない事をいうワケで、『誰よりも一番になりたい』って言ってる時点でもうダメですよ。いいですか？大体ね、高架下で傘さしてるだけで変わった人間だと決めつけて、芸術家を語ったらそーいう子なら着いてくるだろうなんて考えは浅はかですよ。畳んでないだけで、他に理由なんかないわけですよ。
じゃ、終電そろそろなんで帰りますよ、さようなら。」
と、こんな感じの事を、言い放って立ち去ろうとした。
オッサンは呆然として間抜けなツラを向けていたが、「あ、あの、待って…」とやっと言葉を思い出したような情けない声ですがってきた。
無論、振り返ることなく颯爽と深夜の公園を後にした。
オッサンはこの時点で、私に負けたのだ。
その後、オッサンを見かける事はなかった。
２１歳のとある夜の出来事、
無駄な好奇心もあることを学んだ。
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